「社外秘のデータをChatGPTに貼れない」「全社員分のAPI課金が読めない」——この2つを同時に解決するのが、社内に1台のAIサーバーを置いて、社員がブラウザから共有して使う構成です。データは社内から一切出ず、使い放題で、月額の従量課金もありません。この記事では、全体像・必要なハードウェア・コストを、図とグラフで整理します。

なぜ「社内ローカルAI」なのか

  • 機密保持: 入力が外部サーバーに送られない。顧客情報・契約書・設計データ・ソースコードを安心して扱える。
  • コスト: 一度サーバーを用意すれば、社員が何回使っても追加課金ゼロ。人数が増えるほどクラウドAPIとの差が開く。
  • 無制限: レート制限や利用枠を気にせず、要約・分類・文書検索などを全社で回せる。
  • コンプライアンス: 「生成AIにどのデータを渡したか」を社内で完全に管理できる。

全体像:1台のサーバーをみんなで使う

社員は専用ソフト不要。社内URLをブラウザで開くだけで、見た目はChatGPTそっくり。すべて社内で完結します。

社内ネットワーク(入力データは外部に出ません)

社員のPC・スマホ

ブラウザで開くだけ

Open WebUI

共有UI・ユーザー管理・RAG

Ollama / vLLM

推論エンジン

GPUサーバー

社内に1台でOK

必要なのは3つだけです。

  1. GPUサーバー1台(社内設置/クラウドGPUでも可)
  2. 推論エンジン: Ollama(手軽)またはvLLM(多人数の同時利用に強い)
  3. 共有UI: Open WebUI(GitHub 10万スター超。マルチユーザー・チャット履歴・文書アップロード・社内RAGを標準装備)

ハードウェア選定(人数×モデルサイズで決まる)

サーバー選びは「同時に何人が使うか」と「どのサイズのモデルを動かすか」で決まります。まず動かすモデルが載るVRAMが前提です。

規模別の必要VRAM目安(4bit量子化・経験則)
  • 小規模 〜14B約10GB
  • 中規模 27〜35B(MoE)約24GB
  • 大規模 70B級約48GB

1T級(Kimi K2.7 等)はフル量子化で約630GB=マルチGPUのサーバーが前提。1台の射程は70B級まで。

規模想定モデルGPUの目安
小規模数人〜十数人・たまに同時〜14B24GB GPU 1枚(RTX 4090/5090級)
中規模部署単位・常時数人同時27〜35B(MoE)48GB級(RTX A6000 等)1枚
大規模全社・数十人同時70B級H100級、または複数GPU+vLLM

多人数の同時接続では、スループットに強いvLLMが有利。70B級(量子化)は単一の高性能GPUに載りますが、数十人が同時に使うと待ち行列が出るため2枚構成が安全という目安があります。根拠: Open WebUI/LLMセルフホストの運用ガイド

実機での速度(tok/s)は検証DBに実測を掲載。たとえばRTX A6000(48GB)では35BのMoEが約122 tok/sと、中規模の社内利用に十分です。手元の構成で動くかは動くか診断でも確認できます。

構築の流れ(5ステップ)

詳細はOpen WebUI公式に譲りますが、流れはシンプルです。

  1. サーバーにGPUドライバとDocker(またはOllama)を導入
  2. 推論エンジンを起動(ollama serve がOpenAI互換APIとして常駐)
  3. Open WebUIをDockerで起動し、Ollamaをバックエンドに接続
  4. 管理者アカウントを作成し、社員をユーザー登録(権限・モデルの出し分けも可能)
  5. 必要なら社内文書を読ませてRAGを有効化(規程・マニュアル・FAQへの質問が可能に)

コスト:クラウドAPIとの損益分岐

ローカルは「初期投資+電気代」、クラウドは「使った分だけ」。利用量が多いほどローカルが有利になります。下のグラフは一例(クラウド月3万円/サーバー初期40万円+運用月6千円)。

累計コストの比較(例: クラウド月3万円/サーバー初期40万+運用月6千円)
  • クラウド・1年36万円
  • ローカル・1年47万円
  • クラウド・3年108万円
  • ローカル・3年62万円
  • クラウド・5年180万円
  • ローカル・5年76万円

1年目はクラウドが安いが、3年で逆転、5年では差が約104万円に。ただしローカルは5年目前後でハード更新(再投資)が要る点に注意。利用量が多いほど分岐は早まる。

グラフの見方(これは累計です): ローカルの金額が年々増えるのは増設のためではありません累計(積み上がり)のグラフで、増えているのは運用費(電気代+保守 月6千円)が毎月積み上がる分だけ。サーバーは同じ1台のままです。クラウドは月3万円なので積み上がりが速く、時間が経つほど差が開きます。年あたりで見ると、ローカルは初年度47万円→2年目以降は7.2万円/年(運用費のみ)に対し、クラウドは毎年36万円が続きます。

スケールアップ(利用が増えたら)の具体例

上の図は「利用量が一定・1台で足りる」前提です。利用人数やモデルを増やすと、クラウドとローカルで増え方がまるで違います

  • クラウドは“線形に青天井”: 利用量(トークン)に比例して月額が上がる。2倍なら月6万円、5倍なら月15万円——使うほど際限なく増えます。
  • ローカルは“買い切りの階段”: 1台で賄える範囲は、何回使っても追加課金ゼロ。容量を超えたら一度だけサーバーを買い足す“階段状”。継続増は電気代(台数分・月数千円)だけ。
利用規模(例)クラウド 月額クラウド 年額ローカル 追加投資(一度きり)
現状: 20名・1台で十分3万円36万円初期40万円+月0.6万円
2倍: 40名・2台 or 上位GPU6万円72万円+40万円+月0.6万円
5倍: 100名・複数台/上位機15万円180万円+上位GPU/複数台

要点: 利用量・人数が多いほどローカルが効き(クラウドの月額が毎年積み上がる一方、ローカルは買い足し分が一度きり)、少人数・低頻度ならクラウドが身軽です。スケールするなら、上のコスト図に「買い足し分(1台あたり数十万円・一度きり)」を上乗せして試算してください。1台で何人まで賄えるかは同時利用人数とモデルサイズ次第で、動くか診断検証DBで確認できます(数値は規模・モデルで変動します)。

累計コスト(2年目に利用2倍→2台目を買い足した現実シナリオ)
クラウド累計ローカル累計約2年で逆転
万円1002003000123452台目 +40万324万145万

前提: クラウドは利用2倍で月3万→月6万(線形)。ローカルは初期40万+運用月0.6万、2年目頭に2台目を+40万、運用は月1.2万へ。階段が乗っても累計はローカルが大きく下。5年でクラウド324万 vs ローカル約145万(差約179万)。数値は規模・モデルで変動します。

クラウド費用の前提(根拠): 上の「月3万円」は仮定値で、特定サービスの請求額ではありません。クラウドLLMの実費は「API単価 × 利用トークン量」で決まり、モデルと文脈長で10倍以上変わります。2026年の代表的な単価(100万トークンあたり 入力/出力)は、高性能級で Claude Opus 4.8 $5/$25・GPT-5.5 $5/$30、ミドルで Claude Sonnet 4.6 $3/$15・GPT-5.4 $2.5/$15、低価格で Gemini Flash-Lite $0.1/$0.4 など(根拠: LLM API価格比較・CloudZeroInference.net)。

月3万円は一例として、高性能級モデルで月1,300タスク・1タスク約2万トークン(RAGの長文脈込み)を回した場合に概ね相当します(約$180/月 ≈ ¥2.7万・為替¥150/$の概算)。安いモデルや短い文脈なら数千円、長文脈・高頻度なら数万〜十万円超と幅が大きいので、必ず自社の実請求額(または「想定トークン量 × 単価」)に置き換えて判断してください。スケール時の月6万・月15万も、同じ単価に利用量を掛けた線形換算です。

自社の数字で損益分岐を出してみてください。

損益分岐シミュレータ

クラウドAPI vs 社内ローカルAI

自社の数字を入れると、何ヶ月でローカルが得になるかの目安が出ます(概算)。

クラウド累計ローカル累計(初期+運用)17ヶ月で逆転
108万円01年2年3年

緑の面が「ローカルに切り替えて浮く累計額」。利用量(クラウド月額)が増えるほど交差点は左へ動きます。

損益分岐17ヶ月
月あたり削減24,000
3年でローカルがお得464,000

※ クラウド3年 1,080,000円 / ローカル3年(初期+運用)616,000円 の比較。 機材選定の前に、実測の処理速度を検証DBで確認してください。

電力・CO2の目安(サーバーを24時間365日稼働させた場合の概算)

年間消費電力1,314kWh
年間CO2排出591kg-CO2

CO2は全国平均係数0.45 kg/kWh(2024年度速報)で換算。クラウド側の消費電力は公開情報が乏しく直接比較は困難なため、ここはローカルの footprint のみを示します。用途に最小十分なモデルを選ぶほど電力もCO2も下げられます。

ローカルが得と出たら、次は機材選び

損益分岐は「どの機材で組むか」で変わります。実測の速度・適合・価格感は次で確認できます。

金額に表れない価値(機密を出せる・レート制限がない)も、ローカルの大きな利点です。

数字で見る導入効果(モデルケース)

「結局いくら得するのか」を仮のモデル企業で試算します。数値はすべて仮定で、自社の実態に合わせ上の試算ツールで置き換えてください。

前提: 従業員50名・AI利用20名。月間で議事録100本/文書の要約・翻訳400件/問い合わせ一次対応800件を処理。クラウドAPIなら月3万円相当、ローカルはGPUサーバー初期40万円+運用月6千円と仮定。

① 実コスト削減(ハードな現金効果)

期間クラウドローカル差額
1年累計36万円47.2万円(初期込み)+11.2万円(ローカルが高い)
3年累計108万円61.6万円−46.4万円
5年累計180万円76万円−104万円

損益分岐は約17ヶ月、5年では約104万円の差。クラウドは従量・ローカルは固定のため、利用量が増えるほど差は開きます。ただし5年試算はハード更新なしの楽観値で、5年目前後の買い替え(再投資)を見込むと差は縮みます(下記「切り替えコストと課題」参照)。

② 生産性の効果(時間→金額の“目安”)

業務1件あたり短縮月間件数月間削減時間金額換算(時給2,500円)
議事録作成30分→5分100本約42時間約10.5万円
要約・翻訳10分→2分400件約53時間約13.3万円
問い合わせ一次対応6分→2分800件約53時間約13.3万円
合計約148時間/月約37万円/月 相当

重要: この「金額換算」は機会価値(浮いた時間を他業務へ振り向けられる前提)で、即現金化ではありません。意思決定では①のハードな削減と分けて扱ってください。短縮率はモデル品質・業務で大きく変動しがちです。

KPIの置き方(達成を測る)

KPI目標値の例測り方
AI関連コスト損益分岐17ヶ月/3年で−46万円クラウド課金→電気代+償却の月次差
処理時間主要業務 −50%before/afterの実測(導入前にベースライン必須)
定着率利用20名・週3回以上Open WebUIの利用ログ
機密リスク外部送信したAI処理 0件ローカル化できた処理の件数

数字で語るには導入前のベースライン取得が必須です。指標設計の詳細は成果指標と全体最適へ。

切り替えコストと、隠れた課題

上の試算はハードと電気代だけの比較です。実際にクラウドから移行するには“見えにくいコスト”が乗るため、ROIにはこれも織り込んでください。都合の良い数字だけを見ないことが、失敗しない導入の条件です。

  • 初期の切り替えコスト(一度きり): サーバー構築・モデル選定・社内RAG整備・既存ワークフローの繋ぎ替え・社員教育。上の初期40万円はハード代のみで、外注なら数十万円〜、内製でも担当者の工数が別途乗ります。移行期は一時的にクラウドとの二重運用も発生します。
  • ハードの更新(再投資): GPUは3〜5年で陳腐化します。5年試算は“更新なし”の楽観値で、5年目前後の買い替えを見込むと差は縮みます。
  • 運用負荷: モデル更新・ユーザー権限・ログ・障害対応が継続コストに。属人化しやすく、担当者が抜けると回らなくなりがちです。
  • 品質の上限: 最高難度の推論や最新の超長文処理はクラウドが優位。ローカルは「最小十分」の範囲で使い、難所はクラウド併用が現実的です。
  • 可用性: 1台構成は単一障害点。重要業務は冗長化やクラウドへのフェイルオーバーを備える必要があります。
  • 技術的な詰まりどころ(VRAM不足・同時接続・電源/空調)は次節「つまずきやすい点」も参照。

結論: ローカルAIは利用量が多く・機密性が高く・定型反復が多いほど有利です。逆に少量利用や高度タスク中心ならクラウド(または併用)が正解なことも多い。上の数字は「条件が揃えば」の試算であり、自社の切り替えコストを足し、ベースラインで検証してから判断してください。

つまずきやすい点

  • VRAM不足でモデルが載らない: 人数より先に「動かすモデルが載るか」を確認。大規模モデルの必要メモリも参照。
  • 同時接続で遅くなる: Ollamaは手軽ですが、多人数同時はvLLMの方が安定。
  • 電源・空調・設置: GPUサーバーは消費電力と発熱が大きい。常時稼働の前提で設置場所を確保。
  • 更新・バックアップ運用: モデル更新・ユーザー管理・ログの扱いを最初に決めておく。

まず何から

  1. 自社の「同時利用人数」と「扱いたいモデルサイズ」を見積もる
  2. それに合うGPUを選ぶ(実測の速度は検証DB、適合は動くか診断で確認)
  3. 小さく1台で始め、足りなければvLLM+複数GPUへ拡張

機材を入手する

上の「ハードウェア選定」で目安を決めたら、実測(検証DB)で速度を確かめてから選んでください。価格・在庫はリンク先で変動します。

本格的な構築・運用設計や、自社データでのRAG導入を相談したい場合は、Link Fieldへどうぞ。GIS・現場DX・ローカルAI導入の実務に対応しています。巨大モデルを動かす現実はKimi K2.7級・大規模AIの現実に、成果の測り方は成果指標と全体最適にまとめています。